ラブソングより切実な曲がある
サウンドクリエイター 樋口太陽さん
「あたりまえ、あたりまえ、あたりまえ体操」と、体操のお兄さん風に歌ってるひと、ご存知ですか?
漫才コンビCOWCOWに「あたりまえ体操」のメロディー制作を依頼され、仮歌として吹きこんだ声がそのまま採用された。そんな逸話を持つのが、今回ご紹介する音楽制作スタジオ「オフィス樋口」代表の樋口太陽(たいよう)さん。
樋口さんはお笑い芸人さんへの楽曲提供に留まらず、名だたる企業や自治体のCM音楽を手がけるサウンドクリエイター兼経営者。
その職業柄、楽器や道具への強いこだわりをお持ちなのですが、なんと最近「WORKERS'BOX」を使い始められたそうで。さっそく感想をうかがってきました。
樋口太陽さんプロフィール
福岡県田川市出身。学生時代よりバンド活動や自主的な音楽制作を始める。上京した2010年より本格的に仕事としての音楽制作を始め、2011年に株式会社オフィス樋口を設立。ドコモ、JAL、花王、スバルといった錚々たる企業のCM音楽や自治体のPR曲、母校の校歌を手掛けるなど、幅広いジャンルで活躍中。
「その他」の保管場所
― お使いの「WORKERS'BOX」のタイトルに「Vocalist Document」とありますね。
弊社では音楽制作を手伝ってくれる人材を常時募集しているのですが、応募してこられた方々の資料をまとめて入れています。
― 楽曲は樋口さんおひとりで作られるわけじゃないんですね。
もちろん僕も作りますし、制作を任せられるスタッフも在籍しているのですが、たとえば案件によっては「こういう声のボーカルを入れたい」というケースもあるので、外注できる人を常に受けつけているんです。
その際に、これまでの経歴とか音源を資料としていただくんですね。データで送ってこられる方もいますが、CDで手渡しされる方もいます。それらをまとめて保管してます。
▲クリアファイルや音源の入ったCD等をまとめて整理
― 「WORKERS’BOX」を使われる前はどこに収納されてたんですか?
ダンボールの中とかに入れておく感じで、とくに決まった場所はありませんでした。外注できるタイミングが案件次第でまちまちなので、行き場を作りにくかったというか。
― いつかは必要でも今すぐは必要じゃない「その他の書類」って、保管場所に悩みますよね。
そうなんです、だから助かりました。
あと、プライベートでは名刺サイズの「MINI」も使わせてもらってます。
― ありがとうございます。
中に診察券を入れてます。お財布のポケットには限りがあるのに、いつ行くかわからない病院のカードをずっと入れておくわけにもいかないから、今まではその辺にポイっと置いておいてしまってたんですね。
― そして必要なときに限って見当たらないパターンですね。
でも、おかげで行き場をつくることができました。
― 今回は行き場がキーワードですね。
それと、A4サイズもMINIも紙製だから直接書きこめるのがいいですね。プラスチックのファイルだとタイトル欄にシールを貼ったりしないといけないですけど、この手のものはガンガンに書きこんで使い倒していくのが正しいと思います。
あの、クルマのシートにビニールをかぶせたままの人がいるじゃないですか。そういう風に過剰に保護するんじゃなくて「使ってなんぼ」「汚してなんぼ」の製品だと思いますね。
あとタイトルを英語で書くと部屋に置けるんですよ。どうしても「経理」とか「資料」とか日本語で書いてあるファイルは隠したくなるんです。実際、うちのオフィスでもファイルを並べた棚をロールスクリーンで隠してますし。
― なんで日本語だと恥ずかしいんでしょうね。
うーん、たとえばTシャツに日本語で文字が書いてあったら、やっぱり恥ずかしくて着れないじゃないですか。だから「売上」って書いてるファイルもちょっと。
でも「売上」じゃなくて「Sales」って書いてあるファイルだったら、隠さずに人の目線に入っても別にいいかなって。
― たしかに(笑)
▲会社のロゴも英語で格好いい
あ、だから「それを英語で何というか?」の一覧があったら良くないですか? ファイルのタイトルに使えそうな単語のリスト。
― いいですね! たとえば「保険=Insurance」「特許=Patent」みたいに、事務に関する対訳表があったら便利そうです。
音楽という行き場があった
― 音楽をお仕事にする、しかも「企業のCMに関わる音楽を制作する」って相当難しいことだと思うのですが、お仕事を始められたきっかけは?
うちは音楽一家でもなければ、僕自身、音楽学校に通ったわけでもないのですが、母が教育熱心でしたので、子供のころは教養のためにピアノ教室に強制的に通わされまして。
― 強制的に(笑)
実際、全然楽しくなかったです。でも中学一年生くらいになって「戦場のメリークリスマス」の曲を弾いてみたいと思うようになって。兄が先に音楽をやっていて、家に楽器があったから自然と音楽をやるようになりましたね。
― バンドも組まれてたんですか?
やってましたねえ。運動は好きじゃないから部活をやりたくなくて、そうなると僕の住んでいたような田舎では不良になるかバンドくらいしかやることがないんですよ。でも母にピアノを習わされたおかげで音感は身についていて、僕にもできることがあったというか。
― つまり「行き場」があったんですね。さっきの書類収納の話じゃないですが。
▲最近スタジオに導入されたDJブース。
それに時間もたくさんあったから「THE YELLOW MONKEY」の曲を耳コピして、全パートをカセットに録音してましたね。ドラムのパートは膝を打ったりして。
― そのまま音楽の道に進もうと思われたんですか?
いえ、オーディションに受かってCDデビューも一応できたのですが、大学を出たあとに「バンドはもう辞めよう」と思いましたね。
― それはどうして?
僕の地元は福岡なのですが、ミュージシャンをめざしてる人が多いんです。でも音楽だけで食べていけてる人はそんなにいなくって。だから音楽は趣味にして、公務員になろうと思いました。そのための勉強も始めました。
でも、それも嫌になっちゃったんです。勉強自体は嫌いじゃないのですが、公務員試験に受かるには社会情勢にも詳しくないといけなくて。本を読んでると、中東がどうとか不穏なことしか書いてないじゃないですか。なんだか追うのがつらくなってきたんですね。
― いつだって不穏なような気もしますが(笑)
まあそうなんですけど、当時はとくに不穏だったんです(笑)。で、公務員もあきらめて一般企業に就職しようと、職業訓練校に通い始めました。WordとExcelの資格は取りましたね。
ところが、先に上京していた兄に呼ばれまして。兄は当時、芸人をやりながら音楽制作をやっていたのですが、二足のわらじで忙しすぎて大変だから「試しに一曲作ってみてくれ」と頼まれまして。そこからですね、音楽制作を始めるようになったのは。
― お兄さんの影響は大きいですね。
今の会社もふたりで立ち上げましたしね。でも当初はCM音楽にあまり興味はなかったんです。自分がやりたいことだとは思ってなかった。でも、やってみたら面白かったんです。
― どのあたりでそう感じましたか?
本当にいいものを作らないとダメだと気づかされたからです。CMの音楽を作ってくれという依頼に対して「それっぽい曲」をつくっても「CMっぽいね」と言われてNGを出されるんです。「それなり」では通らない世界なんですね。そこが面白いなあと思って。
― ああ。
クライアントありきの仕事は社交辞令がないんですよ。本気度が全然違います。これが自分のライブだったら、そこまでみんなに満足してもらえるような出来ではなくても社交辞令で「良かったよー」って言ってもらえるかもしれないけど、クライアントは対価を払う側だから、満足できるものじゃないと絶対採用されないですし。
だから妥協しないで取り組んで、結果として相手のOKをもらう。自分自身も納得する。めちゃくちゃ、やりがいがありますよね。
▲宮崎県小林市の移住促進ムービー「ンダモシタン小林」の楽曲でBOVAグランプリを受賞。
それに自分で音楽をやってると「言いたいこと」がなくなってくるんです。自分が歌うラブソングなんて、1曲あれば十分じゃないですか。
― ははは。
だから自分が作りたい曲を作って「いいね」って言われることよりも「その曲がないと困るんです」って人たちに必要とされることの方が僕にとっては大事で。
それにCMソングって、会社の顔になるんですよね。だから社員さんの行く末を考えると、自分の恋愛を歌にすることより重いものなんです。そこにやりがいを感じますね。
いい道具が人を変える
― ラブソングなどとは違うモチベーションで楽曲を制作されている、と。
ちなみに、楽器もなるべく自分が納得できるようなものを使うようにしてます。よくバイオリンのストラディバリウスを他のものを聞き比べても「ほとんどの人は違いが分からないからいいや」ってことになりがちなのですが、実はまったくそんなことなくて。聞き手には関係なくても弾き手にとって大事なんです。
― といいますと?
いい楽器を弾いているプレイヤーには感じるものが違うんです。実際、心地よさが全然違います。うちのスタジオにもレスポールのギターがあるのですが、レスポールで弾くとアドリブのときのフレーズが変わってくるんですね。ジャギジャギした音は出したくなくなる。
― 楽器次第でパフォーマンスが変わってくるんですね。
たとえばプロのミュージシャンのライブにいって「ドラムのシンバルがちょっと気になるなあ」「嫌だなあ」って思ったことは一度もないです。でも自分が叩くとなったら話は別で、ちょっとしたことが気になるんですね。だから自分が使う楽器は、なるべくいいものを揃えたい。
― なるほど。
これは楽器に限らず、ふだん使う道具にも言えることで。たとえば僕は会社のハンコを入れるケースにFREITAGのポーチをケース代わりに使ってます。
― 1万円以上しますよね。ハンコを入れるだけなら100均で売ってるものでも代用できそうですが。
それだとモノを大事にできない。僕は「同じ目的だったら100均のものでいいじゃん」というのは違うと思ってるんです。
▲FREITAGはじめ、道具は「値の張るいいもの」にこだわる
むかし日雇いのバイトをやっていた時期があるのですが、そのときのお金で買ったTricker’sのブーツはもう10年も履いてます。最近、ソールを張り替えて、いまでも現役です。
― 徐々にいいものを買う、というタイプではないんですね。
そうそう、いきなりいいものが欲しいんです。その点については、むかしから意識が高いですね。元祖、意識高い系です(笑)
― ははは。
実家暮らしで月収5万円しかなかった時代でも1万2000円のシャツを買ってましたしね。日雇いバイトでまとまったお金をもらったときも飲んだり遊んだりせず、レーシック手術に使いました。目が悪くて、今後コンタクト代がかさみそうだなというのもあって。
― 意識が高いというか、つねに意識が「先のほう」にいってるんですね。
いいものにお金を使って、未来に投資するのが好きなんですよね。まあ、その弊害として常にお金がないんですけど。
― ふふふ。
だからオフィスにある事務関係の書類も、今までは他にいいものがなかったので仕方なく100均のファイルを使ってましたけど、これを機に「WORKERS’BOX」に揃え直したいです。
― ぜひ。そのときはタイトルに英語を使ってくださいね(笑)
「OFFICE HIGUCHI」の公式サイトはこちら
2024.5.27 update
2018.10.18 published
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